日常を離れ、まだ知られざるベトナム北西部の大自然へ。ソンラ省とラオカイ省の境にそびえるサム山(標高2,756m)は、深い霧と原生林に包まれた神秘の山。厚い苔に覆われた森は、まるで物語の世界に入り込んだかのような幻想的な風景を生み出し、近年トレッキング愛好家たちの注目を集めています。

雲上の庭園から始まる冒険
今回のトレッキングは、ソンラ省シムヴァン村(Xim Vang)からスタート。タースアから約20km、山腹には棚田が広がり、モモやスモモの木々に囲まれてモン族の家々が点在する、のどかな村です。春になると花々が咲き誇り、「雲の上の庭園」とも呼びたくなる美しさに包まれます。
登山道は、湿った土の香りが漂う細い山道から始まります。森の中には紫や白の野花が咲き、露に濡れた低木の間からは、野生の果実やキノコが顔をのぞかせます。頭上を見上げれば、古木の枝が幾重にも絡み合い、空を覆い隠すほど。木漏れ日が糸のように差し込み、静かな森に光の模様を描いていきます。


山が息づく、苔むした神秘の森
高度を上げるにつれて空気はひんやりと冷え、霧が濃くなっていきます。やがて前を歩く人影さえ霞むほどになり、サム山の森はより神秘的な表情を見せ始めます。
苔に覆われた幹、雨露をまとったシダ、かすかに響くせせらぎ。まるで山そのものが呼吸しているような感覚に包まれ、人の存在が自然の中に溶け込んでいくようです。
途中、大きな滝と栗の木々が続くエリアを越えると、風を避ける尾根の陰に小さな休憩小屋が現れます。山頂まではここから約30分。運が良ければ、小屋のそばには雲海が広がり、朝日や夕暮れに染まる幻想的な景色に出会えることもあります。


おとぎ話のような世界へ
夜明け後、最後の登りが始まります。そこには、まるでおとぎ話の世界のような風景が待っていました。
苔と葉が漂う霧と溶け合い、ねじれた木々は光を求めて不思議な形に伸びています。厚く積もる苔は、現実離れした美しさを湛え、霧が切れるたび、差し込む光が森を黄金色に照らします。
苔の温かな茶色、葉の深い緑、ハイカーのジャケットの鮮やかな色彩——光と影が織りなすその景色は、まるで生きた絵画のようでした。


山頂で出会う、圧巻のパノラマ
サム山の頂からは、遠くにターチーニュー(Ta Chi Nhu)やフーサーフィン(Phu Sa Phin)など、名峰の稜線を望むことができます。苦労して登った先に広がる壮大なパノラマは、言葉を失うほどの感動。
下山は別ルートでソンチョン村(Song Chong)へ。尾根を三つ越え、苔の絨毯のような森を進みます。足元はやわらかく、一歩ごとに疲れさえ忘れていくよう。森は緑の壁のように周囲を包み込み、最後まで魔法のような余韻を残してくれます。
やがて山道の先に舗装道路が現れ、日常へと戻る瞬間が訪れます。振り返れば、そこには緑の山々と白い雲、静寂に包まれた古の森だけが残っていました。


一度では終わらない山
「サム山は一度では終わらない山」と言う人がいます。
それはきっと、この山がまだ見ぬ景色や発見を、いくつも秘めているから。
自然の神秘に触れ、自分自身を解き放つ旅へ。
苔むす森の奥深く、サム山でしか出会えない物語が待っています。
ベトナム航空機内誌「HERITAGE」4月号より
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