一度訪れたら忘れられない街がある。太陽に照らされた黄色い壁、軒先を彩る花々、苔むした屋根、そして夜ごと灯るランタン。ホイアンの魅力は、歴史だけでは語り尽くせない“色彩”の中にあります。
「旅立っても、心はこの街に置いていく。夜ごとに思い出し、日ごとに恋しくなる。
苔むした屋根を、来遠橋(日本橋)を、川辺の風景を、そして小さな渡し舟を。」
古くから伝わるこの詩には、ホイアンへの深い郷愁が込められています。かつて国際貿易港として栄えたこの古都の魅力は、壮大な建築物や派手な観光名所ではなく、どこか懐かしさを感じる風景や日常の中に息づいています。ホイアンの人々は、穏やかで温かな笑顔で旅人を迎えてくれます。そして、この街を特別な存在にしているのが、唯一無二の色彩です。陽光を受けて輝く黄色い壁、古い瓦屋根を覆う緑の苔、時を刻んだ木造家屋の温かな茶色、軒先を彩る鮮やかなブーゲンビリア。そして古民家の入口に掲げられた「門眼(もんがん)」と呼ばれる装飾が、静かに通りを見守っています。私にとってホイアンは、自然、建築、人々の暮らしが織りなす映像作品のような存在です。街を歩いていると、観光客というよりも、かつて訪れた懐かしい場所へ帰ってきたような気持ちになります。ここでは、すべての物語が色によって語られているのです。

黄色い壁と緑の苔が語る時の流れ
チャンフー通り、グエンタイホック通り、バクダン通りをのんびり歩いていると、ホイアンの魅力がまるで一枚の絵巻のようにゆっくりと姿を現します。
街を象徴する黄色い壁は、一日の中でさまざまな表情を見せてくれます。真昼の太陽の下では鮮やかに輝き、夕方には柔らかな色合いへと変わり、雨上がりにはどこか物思いにふけるような雰囲気を漂わせます。不思議なことに、その黄色は決して派手ではなく、温かく穏やかな輝きを放ち、奥行きのある伝統家屋の美しさを引き立てています。そして屋根に目を向けると、陰陽瓦の上には鮮やかな緑の苔が広がっています。その姿は、この街が幾度もの時代の変化を乗り越えてきたことを静かに物語っています。朝日が差し込む時間帯には、苔むした瓦屋根がまるで時間の流れをゆるやかにしてくれるかのようです。古い壁や屋根、差し込む光の一筋一筋から、ホイアンの穏やかな息づかいが感じられます。


街角を彩るブーゲンビリア
ふと見上げると、バルコニーや木製の窓辺を彩るブーゲンビリアが目に飛び込んできます。純白、鮮やかなピンク、深い紫――色とりどりの花々が古い壁を背景に咲き誇り、まるで絵画のような景色を生み出しています。ホイアンでブーゲンビリアは、単なる花の彩り以上の存在です。黄色い壁や木造家屋の落ち着いた茶色、緑の瓦屋根をやさしく引き立てながら、街並みに優雅さと温もりを添えています。

古民家に宿る「木」の美しさ
ホイアンで最も心を惹かれる色のひとつが、年月を重ねた木材の深い茶色です。扉や柱、梁、手すりなど、伝統家屋のいたるところに使われた木材には、長い年月を重ねたからこそ生まれる深い趣が宿っています。門眼は単なる装飾ではなく、人々の信仰や暮らしの知恵が息づく存在です。それぞれの家が独自の“まなざし”を持つかのように街を見守り、ホイアンが歩んできた長い歴史を静かに物語っています。木の温もりや時の流れが刻まれた美しさに触れるなら、「タンキーの家」や「フーンフンの家」、「クアンタンの家」など、旧市街に残る古民家を訪ねてみるのがおすすめです。ホイアンの美しさは、黄色い壁や苔むした屋根だけではありません。木組みの構造、精巧な彫刻、中庭、奥へと続く回廊、そして古い窓から差し込む柔らかな光。その一つひとつに、何世代にもわたる家族の記憶が刻まれています。
ランタンが灯る夜、街は新たな表情を見せる
夕暮れが訪れると、ホイアンの色彩は再び変化します。古い町並みの軒先や路地には、赤、黄、緑、青、紫のランタンが灯り始め、幻想的な光の帯が夜の街を彩ります。昼間のホイアンが静かで趣のある美しさを見せるとすれば、夜のホイアンは活気と温もりに満ちた別世界です。ランタンの光は歴史ある街並みの魅力を損なうどころか、さらに華やかな彩りを加えます。曲がり角の一つひとつがきらめき、まるで物語の舞台の中を歩いているかのような気分にさせてくれます。

心に残るのは「色」の記憶
ホイアンの色彩は、単に目で見るだけのものではありません。
それは香りのように、足音のように、ふとした瞬間に思い出される記憶です。太陽は黄色い壁を温かく照らし、苔は瓦屋根に深みを与えます。木材は街に重厚感をもたらし、ブーゲンビリアは彩りと華やぎを添えます。そしてランタンは、夜を温かな思い出で照らします。こうして生まれるホイアンの風景は、古くて新しく、どこまでも穏やかです。だからこそ、この街を離れる人は誰もが再び戻りたいと思うのでしょう。ホイアンの色彩は、旅の終わりではなく、次の再会への約束として心に残り続けるのです。
ベトナム航空機内誌「HERITAGE」6月号より
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