1997年、一冊の料理本と出合い、そこに載っている料理を実際に食べてみたいとベトナムまで足を運び、がっつりハートをつかまれた。その3ヵ月後には、当時勤めていた会社を辞めて、ホーチミンに料理留学をしていた。
西麻布のベトナム料理レストランのオーナーシェフ、鈴木珠美さんは、本当に楽しそうにベトナム、そしてベトナム料理について語ってくれるベトナム愛にあふれるシェフだ。
「留学時代に親しくなったベトナム人との挨拶は『アンコムチュア』、意味は『ご飯たべた?』。朝だったら『アンサンチュア』、意味は『朝ごはん食べた?』。実際に食べてなければ、『残り物だけど。。。』と本当に食事を出してくれるんです」
親しい間柄の人との挨拶がご飯についてなんて、ベトナムでは「食」は大切な人たち、家族をつなぐ生活の最重要アイテムのようだ。
ベトナムで過ごす理想の食事について聞くと、「家族が一緒なら、いつでも食べられるのでホテルのレストランやラウンジでビュッフェがメイン。子供たちが喜びます。一人なら、朝は旧市街のフォー。喧騒の中、バイクや人の流れを見ながら食べる、一杯のフォーは幸福です。お昼はコムビンザン(大衆食堂)に行きます」
食べ歩きが大好き!と仰る鈴木さんに、おすすめのレストランを聞いてみた。「ハノイなら『ティーアート』、ホーチミンだったら『フム』や『プロバガンダ』」どこも、旅行者が気軽に行けるレストランとのこと。
また、お買い物についても。「ベトナムに行ったら必ず買って帰るものは、香菜のウエハース!中にピーナッツバターが入っていて、食べるとしっかり香菜の香りが楽しめます。最近は、オーガニックのライスペーパーや、米の加工品・ヌードルなども買いますし、ハノイのハンザ市場やドンスアン市場に行って、使い方を聞いて調理道具も買って帰ります。『ライスペーパー戻し』など、色々進化しているアイテムがみつかるんです」
年明けには、コショウを求めてフーコック島に行く予定の鈴木シェフ。「ベトナムは、それぞれに気候を活かした食や料理があって、どこも魅力的だけど、最近はホーチミンが好き。訪れる度に『食の発信基地』って思う。常に進化していて、おもしろい料理や美味しいレストランが増えています。子供たちが一緒だと、通年で暖かいのもありがたいですね」
そして、気になる鈴木さんの一番好きなベトナム料理。即答で「家庭料理!」と。「やっぱり、ご飯に合うおかずたちが並んだ食卓が一番だと思うんです。生春巻きでも、バインセオでもなく、ベトナム料理は家庭料理にある。例えば、豚肉を甘辛く煮た料理と具沢山のスープ、それに湯通ししたキャベツみたいな」うーん、なるほど、母の味といったところでしょうか。「近年ベトナムでも、ファーストフードを食べたり、どんどん欧米化しているけど、ベトナム料理必須の調味料で『命の水』といわれている「魚醤(ヌクマム)」をベースに作る、米に合うベトナム料理は変わらず、昔からの家庭の味が続いています」
目標について聞いてみると、「最近のベトナム人シェフの中には、グローバルな料理を学び洗練されたモダンなべトナム料理を作る方がいます。作りこんだフレンチベースや、インドやイタリアンのエッセンスを取り入れたり、既存の料理を生まれ変わらせるようなシェフが好き。私自身も、ある程度ベースのベトナム料理は作れるので、これからは自分が食べてきた味、経験をいかしたアレンジ、私なりのベトナム料理を作っていきたいです。月替わりのコースなんかもいいですね」